ロシアの音楽院の卒業試験

卒業試験のことをгосударствунный экзамен(ガスダールストヴィンヌイ エグザーミン)といい6月に行われます。直訳すると国家の試験です。

ロシアの音楽院は5年制なので5年生の最後の試験が卒業試験となり、とても大事な試験です。

入学試験より卒業試験の方がロシアでは重要視され、国家試験でもあります。

音楽院は年に2回実技試験があるのですが、5年生の前期は試験はなく、卒業試験の為に学生たちは準備をします。それくらいしっかりと準備をして試験に挑みます。

私はオーケストラ科のバイオリン専攻の学生として在籍していました。通常の実技試験は教室で行われ、卒業試験はグラズノフホールという大ホールで行われます。

卒業試験は、一般公開の演奏会形式でドレスを着用して演奏します。審査員もサンクトペテルブルク音楽院の先生達だけではなく、他の都市から先生を招いて審査をしないといけないらしく、私が卒業試験を受けた時は、モスクワとペトロザボーツクの音楽院から先生が数名いらしていました。

課題曲は無伴奏のバッハから2曲とコンチェルト。だいたい20分から30分程度演奏します。ロシアの作曲家のコンチェルトを演奏することが多く、特にペテルブルクにゆかりのある、プロコフィエフやチャイコフスキーを演奏する学生達が多いです。でも1番人気はダントツでショスタコーヴィチ。生徒の3分の2以上は演奏しているのではないでしょうか。飽きるくらいですが、ペテルブルクにとっては本当に大切な作曲家で、生活をしているといかにショスタコーヴィチをペテルブルクの人達が大切に想っているか伝わってきます。この曲を聴くと卒業試験のことや、先生の事を思い出します。

この曲の3、4楽章を試験でよく演奏します。

ちなみに卒業試験で、私はソ連時代の作曲家ハチャトリアンのコンチェルトを演奏しました。試験前の楽屋はピリピリモード。みんな、落ち着かなくてウロウロしたり、お水を飲んだり、弾けないところを練習したり。どこの国に行っても本番前は同じです。

成績は演奏終了後、審査員達が話し合って決めます。審査員の間で、生徒の成績でかなり激しいケンカになることもあります。(私のアンサンブルの先生は他の先生と生徒の成績でケンカして3ヶ月口を聞いていませんでした)

その後、師事している先生から成績を伝えられ、成績表に成績(5段階評価)とサインをしてもらいます。

私は試験後、先生から「最悪は間逃れた」と言われました。どれだけ先生に心配させていたのだろうと思うと、今でも頭が上がりません。

バイオリン講師 澤井亜衣