恩師の負けず嫌いがわかったブラームスのバイオリンコンチェルト

先生から最初にいただいた課題曲はブラームスのバイオリンコンチェルトでした。20歳の誕生日にブラームスのバイオリンコンチェルトを試験で弾くことになったりと、思い入れのある曲です。

力強いブラームスのバイオリンコンチェルトの1楽章の演奏時間は20分以上。4大バイオリンコンチェルトの一つで激しくもあり、男性的な作品で体力が必要です。

ヌヴーの演奏は名演です!

レッスンが中盤になってくると、先生も指導がさらにヒートアップし、座りながらアドバイスしているのが、私に近寄ってきて一緒にブラームスを暗譜で弾き出します。先生が力強い音で弾くので、私の音は掻き消されてしまうくらいです。教室は二重とびらになっているのですが、廊下まで聴こえていたらしいです。しかも先生の音だけ。当時、私は19歳。先生は70歳越え。私の方が体力があるはずなのに、本当に力強い音で素晴らしい演奏をいつもレッスンでしてくださっていました。

たまたまこの時期に、バイオリニストのシュロモ・ミンツがペテルブルクにやってきて、ブラームスのバイオリンコンチェルトの演奏会がありました。聴きに行きたかったのですが、残念ながら私は機会を逃してしまいました。どうやら先生とシュロモ・ミンツは知り合いのようで、学校で演奏会の数日前に会話をしていました。

シュロモ・ミンツの演奏会が終わった翌日、レッスンに行くと教室からブラームスのバイオリンコンチェルトの音が聞こえてきました。ドアを開けると、なんと先生が練習していたのです。

この光景をみて、凄まじい向上心だなと思いました。こんなにすごいバイオリンが弾けるのに、まだまだ練習するのかと。常に努力をされていらっしゃるんだなと。

先生には大変失礼ですが、普段はオーラはないです。清掃のオッチャンに間違えられたくらいです。でも、バイオリンを弾く時はシャキッとしてキラッとしています。そういうところ先生らしいなと思います。

バイオリン講師 澤井亜衣