フォーレの《夢のあとに》の難しさを探る
フォーレの《夢のあとに》。
とても美しい旋律で、ヴァイオリンでもよく演奏される有名な作品です。
ところが実際に弾いてみると、意外ととっつきにくい曲だと私は感じます。
音符がものすごく多いわけでも、華やかな超絶技巧が出てくるわけでもありません。
では、なぜ難しく感じるのでしょうか。
フランス音楽ならではの難しさ
フォーレは19世紀後半から20世紀初頭に活躍したフランスの作曲家です。
ロマン派の時代に生きた作曲家ですが、その独特な和声や響きには、その後のフランス近代音楽へとつながっていくものも感じられます。
ヴァイオリンを勉強していると、ドイツ、オーストリア、イタリアなどの作品に触れる機会は多いのですが、フランス近代の音楽を本格的に勉強するのは、比較的あとになることが多いように思います。
もちろんフランスにも、リュリやラモーなどバロック時代の作曲家がいます。
バロック音楽は様式が比較的はっきりしているので、それに比べると、フォーレのような音楽は和声や色彩、フレーズの捉え方が少し複雑です。
こうした音楽にあまり馴染みがないことも、《夢のあとに》をとっつきにくく感じる理由の一つかもしれません。
実はヴァイオリンのために書かれた曲ではありません
もう一つ、大きな理由があります。
《夢のあとに》は、もともとヴァイオリンのために書かれた作品で
歌曲を、ヴァイオリンで演奏できるように編曲したものを弾いています。
ここが、ヴァイオリニストが作曲した作品との大きな違いです。
たとえばクライスラー、サラサーテ、ヴィエニャフスキ。
彼らの作品には非常に技巧的なものもありますが、彼ら自身が優れたヴァイオリニストでした。
そのため、難しいことが書かれていても、実際に弾いてみると「ヴァイオリンという楽器をよくわかって書いている」と感じることがあります。
指の動きや弓の使い方などが、ヴァイオリンの特性に沿っているのです。
一方、《夢のあとに》の旋律は、もともとは人間の「声」のためのもの。
その歌をヴァイオリンでどう表現するのか。
そこに、この曲ならではの難しさがあると思います。
編曲によって楽譜も違います
もともと歌曲ですから、ヴァイオリン版にはさまざまな編曲があります。
実際に出版されている楽譜を見ても、編曲者によってヴァイオリンの音が異なることがあります。
そのため《夢のあとに》の楽譜を購入するときは、タイトルだけで選ばず、誰の編曲なのか、
三連符をどう「揺らす」か
そして実際に演奏するときに難しいのが、この曲の時間の使い方です。
特に三連符。
楽譜どおり正確に弾いているのに、なぜか音楽が固く聞こえてしまうことがあります。
私は《夢のあとに》のようなゆっくりした作品では、三連符を少したっぷり感じながら、長い音符は長めに感じて演奏するようにしています。
もちろん、リズムを好き勝手に崩すという意味ではありません。
基本となる拍は保ちながら、その中で少し時間を使う。
歌を歌うときにも、すべての音を機械のように同じ長さ、同じ重さでは歌わないので、
ヴァイオリンでも同じように、旋律に「呼吸」を作っていくことが大切なのではないかなと思っています。
《夢のあとに》は、一見するとシンプルで弾きやすそうに見える曲です。
でも実際には、フランス音楽ならではの色彩的な響き、歌曲から編曲された旋律、そして独特の時間の使い方など、考えることがたくさんあります。
今回、《夢のあとに》を演奏した動画を公開しました。
ぜひお聴きください。
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バイオリン講師 澤井亜衣


